京都府立京都学・歴彩館
東寺百合文書WEB

百合百話 (ひゃくごうひゃくわ)

再読!91歳上島有(うえじまたもつ)さんの東寺百合秘話 ③

2016-09-15

「京都新聞」2016年1月23日付22面記事を再掲

「後七日御修法」と「弘法さん」               

(上島有:京都府立総合資料館元古文書課長・摂南大学名誉教授)

 

 

新年早々の8日から14日まで、東寺(教王護国寺、京都市南区)では「後七日御修法(ごしちにちみしほ)」が厳修されました。また、21日は「初弘法」で東寺の境内はもちろん、周辺も参拝の善男善女で大いににぎわいました。

 

「後七日御修法」と「弘法さん」は東寺を象徴する「二つの顔」だと思います。そして、東寺百合文書にも脈々と流れている東寺の「二つの信仰」であると言ってもよいかもしれません。しかも、それぞれ独自に機能しているのではなく、混然一体となって素晴らしい調和を醸し出しているのが東寺です。

 

毎年正月早々に、東寺の灌頂院(かんじょういん)で行われます「後七日御修法」は、東寺の重要な年中行事の一つです。ほぼ「寒の入り」とも重なって、いつも御修法になりますと「寒いなあ」と感じるのですが、京の新春を彩る風物詩として欠かすことのできない行事です。

 

これは、弘法大師空海が、承和2(835)年に勤仕したのに始まります。東寺長者が主宰して玉体安穏・五穀豊穣(ほうじょう)を祈る修法で、それ以後、毎年、宮中真言院で営まれてきました。途中、一時中断したことはありましたが、ほぼ全時代をつうじて勤修されています。廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)の嵐の後、明治16(1883)年には、今の東寺灌頂院で行われるようになり、現在でも毎年勅使をお迎えして、正月8日から14日まで(これを後七日と言います)、真言各派を代表する高僧14人によって厳重に執り行われています。

 

一方で東寺と言えば「弘法さん」です。毎月21日の御影堂御影供は、大師の恩徳に報謝して香花を捧げる法会です。これは、鎌倉時代の延応2(1240)年3月21日、長者はじめ新補の供僧が勤仕したのが始まりです。その後、連綿として伝えられ、今日におよびます。

 

この日に参詣すると、大きな功徳があるといわれ、京都近郊をはじめ全国各地から約20万人にもおよぶ参詣者が訪れます。とくに年頭の初弘法、年末の終(しま)い弘法は有名です。それにともなって、境内を中心に多数の露店が所狭しと立ち並び、民衆信仰の根深さを痛感させられます。

 

よく、東寺は鎮護国家の寺院だといわれます。また一方で、庶民信仰の「弘法さん」ともいわれています。この二つが、東寺を代表する修法・法会ですが、後七日御修法は平安時代以来のもっとも格式の高い鎮護国家の修法です。

 

また、「弘法さん」は、鎌倉時代以来の大師信仰にもとづいた庶民信仰です。この二つが完全に一体化して、一つの東寺という寺院を形成しているのが現在の東寺の信仰であり、その姿であります。そして、百合文書という大きな“建物”を支えているのが、この2本柱なのです。

 

 

東寺百合文書から 天仁三年後七日御修法修僧等交名「僧侶たちの配役リスト」

(聞き手・仲屋聡:京都新聞記者)

 

ふ函2号-1 後七日御修法修僧交名

ふ函2号-1「後七日御修法修僧交名」天仁3(1100)年

 

 

東寺で正月に、僧侶が「鎮護国家」などを祈願する真言密教の最高儀式「後七日御修法」の昔の様子を伝える文書が、東寺百合文書の中にあります。

 

この文書は、天仁3(1110)年に営まれた御修法を担当した僧侶たちの「交名(きょうみょう)」、いわゆる配役リストです。御修法の状況を現在に伝える文書の中では最も古い文書となります。現在は東寺の灌頂院で営まれている行事ですが、当時は宮中の真言院でやっていたので、おそらくこの文書と同じ物を天皇に捧げたのでしょう。これらの僧侶たちが祈願しますという報告書の控えです。

 

導師となる大阿闍梨には「範俊(はんしゅん)」という僧侶の名があります。さらにその右側に、「鳥羽僧正」と書かれた紙が後の世に貼られているのが分かります。鳥羽僧正は範俊の異名です。

 

その下には「金剛界」と書いてあります。御修法には「金剛界」と「胎蔵界」の二つの行法があり、毎年交互に営みます。この年は金剛界だったことが分かります。続いて僧侶の名前が順番に記され、息災護摩を焚く僧、十二天や聖天を供養する僧など、それぞれの役割がそれぞれ書かれています。

 

この交名は、天仁3年から明治4年までずっと残っています。東寺百合文書としては12巻368通、東寺には7巻160通が残り、合計528通が保存されています。御修法は現在も営まれ続けている年中行事でもあり、これらの文書は古文書ではなく、まさしく生きた文書であるといえます。

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