京都府立京都学・歴彩館
東寺百合文書WEB

百合百話 (ひゃくごうひゃくわ)

再読!91歳上島有(うえじまたもつ)さんの東寺百合秘話 ⑧

2017-11-29

「京都新聞」2016年6月25日付26面記事を転載

大般若経6合と文書箱94合            

(上島有:京都府立総合資料館元古文書課長・摂南大学名誉教授)

 

 

東寺百合文書は、1997年6月、国宝に指定されました。東寺宝物館では記念として、その秋に特別展「東寺文書十万通の珠宝―時空を超えて」を開くことになり、準備を始めた頃だったと思います。学芸員(現文化財保護課長)の新見康子氏と宝物館3階の収蔵庫に上がりました。いつも目にしているのですが、ちょうどよい機会で「何か面白いことがあるかもしれない」と、国の重要文化財に指定されている大般若経6合の箱の蓋を開けて底裏を眺めてみました。すると、何と銘があるではないですか。これにはしばし、絶句しました。

 

それは「百合」の桐箱の蓋裏銘とほとんど同じでした。まず、筆跡は間違いなく同一で宝菩提院亮兼(ほうぼだいいんりょうけん)のものです。そして、大まかな記載の仕方も両者は同じです。さらに百合文書の箱と同じく貞享2(1685)年11月、松雲公前田綱紀によって寄進されたものでした。ここまでくると、この大般若経の箱は「百合」の箱と完全にひとそろいのものとして寄進されたと考えざるをえないと思います。
すなわち、貞享2年、松雲公の寄進は、「百合」の文書箱94合と大般若経6合と合わせて、100合となります。これを「百合」としたと考えられます。

 

これを裏付けるものとして、まず、「百合」の一箱単位の他出・紛失は考えられないということです。それだけでなく、宝物館には享保12(1727)年の「衆議雑記」の写しがあります。ここには、その当時93箱だったと記されています。享保12年は松雲公の寄進からわずか40年あまり後になります。この間に宝蔵にあった百合を6、7箱も紛失したとは考えられません。

「百合」の箱数については、大般若経の箱底銘の発見の成果と合わせて考えると、松雲公の寄進は94箱だったとしてよいと思います。享保12年の93箱だったという記録は、一箱の計算間違いだったとして問題ないのではないかと考えます。

 

かくして、「百合」の箱に関する長年の重要な謎が解けたことになります。これなどは東寺宝物館という、百合文書が成立・保存されてきた現地で、前々回の松平定信書状にもみられるように、豊富な史料が残っていたからこそ解決できたことであります。本当にありがたいことです。

 

  1.  

    東寺百合文書から 貞和5年閏6月27日 足利直義下知状 「絶頂時と死の前年 異なる花押」

    (聞き手・仲屋聡:京都新聞記者)

    せ函足利将軍家下文3号 足利直義裁許状

    せ函足利将軍家下文3号「足利直義裁許状」貞和5(1349)年閏6月27 日

     

  2. この文書は「どこかで見たことがある」という方が多いのではないでしょうか。そうです。これは一昨年のセンター試験の日本史で出題されて一躍有名になりました。もちろん足利直義に関する設問でしたが、とにかく東寺百合文書にとって大変光栄なことでした。

  3. この文書で特に目につくのは、大きな直義の花押でしょう。これは直義が幕府の全権を掌握して、得意の絶頂にあった時の気持ちをそのまま表したものです。前回お話しした尊氏の花押と比べてみて下さい。全くといっていいほど違います。実は、尊氏と直義兄弟のごく初期の花押は大変よく似ていて、私もよく両者を混同したことがあります。両方とも足利氏の通字である「義」を象形化したものですから似ているのは当然なのです。

  4. それが、この段階になりますと両者全く違います。前回の尊氏の花押は、これと1年くらいしか違いませんが、尊氏のものは横幅7センチ、この直義の花押は11センチと違っています。この直義の花押は現在4通残っていて全て同時期で形は全く同じです。しかし、尊氏の執事高師直(こうのもろなお)による8月14日のクーデターで、直義は追放され、尊氏・直義兄弟の全面対決になります。これを「観応の擾乱(じょうらん)」といいますが、前回の尊氏の祈禱命令もこれに関連するものです。

  5.  

    この擾乱中の観応2(1351)年4月の文書の花押になると、2年も離れていませんが、形が非常に違ってきています。それよりもどんよりしていて生気がありません。

  6. 私は、何となく死の影が漂っていると感じます。翌年(1352年)2月には、初期には花押までほとんど同じであったように仲の良かった兄尊氏によって毒殺されますが、それを予想させるものではないかと思います。
    このように、花押も多角的に追究すると、大変興味のあるものだということがお分かり頂けるのではないでしょうか。

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